近いお身内の方がお亡くなりになって気落ちしているところへ、相続の発生により様々な手続きを急いで行わなくてはならず、これまで考えたこともないようなことを早々に決断してくださいと迫られ大変な思いをしたことのある方、今まさにその最中である方もいらっしゃると思います。
そんなよくわからない中で、今まで聞いたことも見たことも無かった予期せぬ土地を相続してしまったということはわりとよくある話です。
土地活用に関する知識をその時点で持っている人なんてめったに居ませんし、自分が住むわけでもない土地を相続してしまった場合、『何をどうしたらいいのかわからないからとりあえずそのまま放置』としてしまっても仕方ないことです。
しかし、利用していなくても相続してしまった土地は無かったことにはなりませんし、固定資産税も発生すれば、その土地や建物の所有者であることによる責任は発生してしまいます。
何事もなければそのまま税金だけ払い続けて忘れたフリを続けることは可能ですが、自分が亡くなった時にはご自身のお子様等の相続人が同じ苦労をすることになります。
なんとなく心に荷物を持ったような気持ちで暮らすのもしんどいことでしょうし、せっかくこの記事にたどり着いてくださったのですから、どういう方法があるのか、まずは知ることから一緒に始めてみましょう!
相続土地国庫帰属制度とは
相続や遺贈を原因として望まぬ土地を相続してしまった方が、要件を満たして申請を行ない、負担金を支払うことでその土地を放棄して国に返すことが出来るという制度があります。
それが『相続土地国庫帰属制度』です。
誰が申請できるのか?
相続や遺贈によって予期せず土地を取得してしまった人の負担を解消するために生まれた制度であるため、この制度が利用できるのは『相続(または遺贈)によって取得した土地』の『相続人様(または受遺者様)』とかなり限定されています。
相続した土地が共有名義の土地であった場合は、共有名義の持ち主全員でこの申請を行わなければなりません。
自分が放棄したいと思っていても共有名義人のどなたか一人が反対されればこの制度への申請はできなくなってしまいます。
逆に言えば、共有名義人の誰か一人がお亡くなりになって相続人が持ち分を取得した際に、全員がこの土地を放棄したいと考えていれば、持ち分を取得された相続人の方を申請主体として、本来であればこの制度は使えなかったその他の持ち分所有者もこの制度を使うことが可能になります。
共有名義の土地は申請可能かどうかの判断も難しく、利害関係人が多くなる分だけ手続きも煩雑になってしまいますので、ご自分で解決しようとせずに専門家にご相談することをオススメします。
どんな土地でも申請できるのか?
相続によって取得した土地であればどんな土地でも放棄できるとなると国が大変なことになってしまいますので、当然、申請できない土地の要件が明確に定められています。
以下の要件に1つでも適合していれば申請不能な土地となりますので、自分が相続した土地(相続する予定の土地)がこれらの要件に該当していないかどうか、合わせて確認してみてください。
- 建物が建っている土地
- 抵当権・地役権・賃借権・収益権等の第三者への権利が設定されている土地
- 通路等で他人の使用が予定されている土地
- 特定有害物質により汚染されている土地
- 土地の境界が明らかでない、または範囲等について争いのある土地
- 崖があって維持管理に過分の費用がかかる土地
- 管理を阻害する木や工作物がある土地
- 井戸や不法投棄ゴミ等、除去しなければ通常の管理ができない土地
- 公道に面していない袋地等、隣接地所有者との争訟が必要になる土地
- 土砂崩れ・地割れ・陥没等があり、管理や処分に過分な費用がかかる土地
- 鳥獣・害虫・スズメバチ・ヒグマ等、その土地の生息動物により被害を生じさせる土地
- 森林整備計画に適合していない森林で、引き続き造林や間伐が必要な土地
- その他、土地を引き取った事後に国に管理費以外の支出が発生すると見込まれる土地
申請方法
相続した土地にある法務局の本局へ、国庫帰属申請窓口に来庁して申請する方法と、郵送にて申請する方法があります。
窓口に申請に行くのは原則申請者本人となります。
弁護士・司法書士・行政書士は申請者の代わりに申請書類を作成することと、作成した書類を提出しに行くことは出来ますが、申請の代理人にはなれませんので補正等があった場合にその場で代わりに訂正することは出来ませんのでご注意ください。
また、申請者連絡先として記入した連絡先に連絡がつかない場合は申請が却下される場合があります。
申請が受理されてから審査が完了するまでに半年~一年程度を要すると言われており、長期に渡る可能性がありますので、申請期間中に入院することになった場合等は必ず誰かが状況を報告できるようにしておいてください。
窓口に直接申請に行く場合、予約は必須ではありませんが、担当者不在で受け付けてもらえない可能性や、窓口が混み合っていて相当待たされる可能性があることをふまえて、事前に予約しておくのが良いでしょう。
審査手数料は土地一筆あたり14,000円が必要となります。
申請時に申請書に収入印紙を貼り付ける形で手数料を納付します。
審査手数料は、申請の取り下げや、却下、不承認となった場合でも返却はされませんので、よくよくお考えの上で申請するようにしてください。
相談について
自分の土地が国に引き取ってもらえる土地なのかどうかの相談をまずはしたい、負担金がいくらになるのか具体的な数字を知ってから申請するか検討したいという方は多いと思います。
そういう方のための相談窓口もありますのでご安心ください。
ただし、相談は窓口対面式も電話相談式も予約制となっており、予約が無い方の相談は受け付けてもらえません。
まずは『法務局手続き案内予約サービス』から予約をとってください。
予約はお一人様1日1回のみで、1回のご相談時間は30分となっています。
短い時間で効果的に相談を行うために、以下の資料を揃えてから相談予約を行ってください。
- 相談票
- チェックシート
- 土地の登記事項全部証明書
- 法務局発行の地図または公図
- 法務局発行の地積測量図
- その他土地の測量図面
- 現況写真
なお、相談の結果恐らく国が引き取ってくれるでしょうと言ってもらえたとしても、それはあくまでも相談時に提出された資料の範疇での答えであるため、実際に申請した時の審査の結果と異なる場合があるということを了承しておく必要があります。
また、資料は用意出来なくても相談すること自体は可能ですが、公的な資料がなければ担当者の方も明確な回答が出来ないため、ほぼ意味の無い時間になってしまうことは間違いありません。
「自分はわかってるから大丈夫、自分の言ってることは正しい情報だ」と主張したところで、証明するものが無ければたとえあなたの言ったことが事実であったとしても、公的機関としてはそれを前提とした回答は出来ないということを理解した上で相談に行ってくださいね。
実地調査について
申請を行なった土地に対して実地調査が行われます。
全ての申請に必ず発生するわけではありませんが、実地調査に同行を求められるケースもあります。(同行費用は当然自腹負担となります)
実地調査への同行を求められた場合、正当な理由もなくこれを拒否すれば申請が却下されてしまいますので、どうしても同行できない事情を説明してご理解いただくか、同行に応じる必要があります。
申請した土地の近くに住む親族や、申請書類の作成をお願いした弁護士・司法書士・行政書士等は本人に代わって同行することも認められています。
遠方の土地を申請する際で、申請者本人がいつでも自由に身動きできる状況でない場合は、該当地の近隣に連絡のつく親族がいるかどうかも先に確認しておいたほうが良いでしょう。
近隣に親族が居ない場合は実地調査がある可能性もふまえて最初から士業に依頼した方がスムースかと思います。
負担金について
申請した土地が国に帰属することが承認された場合、本来土地をそのまま所有していれば管理にかかるはずであった費用の一部(10年分)を負担金として納付することになります。
負担金の計算は、その時の『種目』と『用途区域』と『面積』によって計算することになります。
土地の状況によっては複雑な計算になりますので、法務省が出しているこちらの計算シートをご利用ください。
法務局から納入告知書が送付されてきたら、記載されている負担金額を通知が届いた翌日から起算して30日以内に納付します。
期限内に負担金が納付されなかった場合、承認は取り消しとなり、再度最初の申請からやり直しとなりますのでご注意ください。
期限内に正しく納付が行われれば、納付された日をもって土地の所有権が国に移転します。
隣接土地との境界について
申請を行なうためには、土地の範囲や、申請者が認識している隣接土地との境界を現地でしっかり確認できることが必要となります。
申請の際に、『承認申請する土地と隣接する土地との境界を明らかにする写真』と『承認申請する土地の形状を明らかにする写真』という書類を作成する必要があり、これらの書類を正しく完成させることが出来るならば、現地で確認が出来る状況であると言えるでしょう。
法務局発行の地図、または国土地理院地図に境界線を書き込み、各ポイントとなる地点に境界点が確認出来る写真を添付し、書き込むことが出来ればOKです。
(この申請書類を元に現地調査が入りますので正確な記載が必要です。)
しかし、本来あるべき境界点が経年劣化によって消滅していたり、大雨や地震によってポイントがずれてしまってる場合が多々あります。
その場合は境界を明確に書き込んで画像を添付することが出来ず、申請が出来ません。
境界確定図や隣地所有者との境界についての合意書までは申請の際には求められてはいませんが、境界が明確でなければそもそも申請することができませんので、この場合は土地家屋調査士さんへ一度ご相談されることをオススメします。
勝手にポイントを打ち込んで申請しても、隣地所有者へその申請をしたことの通知が必ず届きますので、隣地所有者の方が思っている土地の境界を侵害している内容だった場合は隣地所有者から異議が唱えられるようになっています。
異議が入った申請はその争いが解決しない限りは却下となりますので、ワンチャン狙いで申請するよりも、最初から隣地所有者に相談して同意を得た上で申請する方が圧倒的に良策です。
自分の土地の境界を勝手に侵害した人だと認識されるとその後の関係性はまず保てないので何をするにも同意が得られず、その土地の自由が全く効かなくなる可能性が相当高まるため、死に地となってしまう可能性があることを充分に想像、考慮の上で行動してください。
相続土地国庫帰属制度以外の方法はあるのか
相続土地国庫帰属制度を利用する以外の土地を手放す方法を簡単に挙げておきます。
- 相続放棄
- 地方公共団体等への寄付
- 売買または贈与
- (農地であれば)農地中間管理機構の活用
- (森林であれば)森林経営管理制度の利用
相続放棄
相続放棄は一般的なので概要は皆さんご存知だと思いますが、相続があったことを知った日から3ヶ月以内に相続放棄の申請を行なうことで相続の全てが放棄できるので、他の相続財産も受け取れませんが不要な土地を相続しないで済みます。
相続財産が不要な土地しか無い場合はこの方法を選んでも良いかもしれません。
ただし、相続放棄をすると次の相続権者を相続に巻き込むことになりますので、次の相続権者は誰なのかを確認した上で、問題の無い相手であれば手続きに進みましょう。
相続放棄の手続は弁護士か司法書士に依頼することが出来ますので、お近くの弁護士さんか司法書士さんへ事前に連絡の上で必要書類を準備してから相談してみてください。
地方公共団体等への寄付
地方公共団体等へ土地を寄付する場合は、事前に該当する地方公共団体等に相談を行ない、審査を受ける必要があります。
審査の結果受け入れ拒否となれば、土地を寄付することは出来ません。
土地の寄付に関しては受け入れされないことの方が多いため、あまり使えないと思っておいた方がいいですが、相続土地国庫帰属制度の申請をする前に一度寄付の受け入れについて相談に行ってみるのはいいでしょう。
駄目で元々なので、仮に受け入れてもらえるとなればラッキーですし、受け入れられなければ他の方法を検討するしか無いという切り分けが可能になります。
売買または贈与
土地を買い取ってくれる、または無償で引き受けてくれる人を見つけてくることが出来るのであればこの方法が使えます。
ご自身で土地の近隣にお住まいの親族や知り合いに声をかけて探すか、懇意の不動産屋さんがいればそこへ相談して探してもらうのが一般的ですが、自分が不要だと思う土地は他人から見ても不要な土地であることは理解しておく必要があります。
殆どの場合でまともな値段がつくことはありません。
また、無償なら引き受けてあげるよと言われても、相手方は贈与税の支払いについてはわかっていない可能性が高いため注意が必要です。
事前に税理士さんに贈与税はどの程度の金額になるかを確認しておき、無償で贈与する場合はこれぐらいの贈与税を支払ってもらう必要があるけど大丈夫ですか?と具体的な数字を出した上で話を進めたほうが良いでしょう。
農地中間管理機構の活用
農地であれば、農地中間管理機構に登録することで当該農地の貸し出しや売買についてその農地を活用するための相談に乗ってもらったり、農地の仲介のようなことをしてもらう事ができるとされています。
ただし、各農地バンクによって何をどこまでしてくれるのか、どんな土地でも借り上げてくれるのか等については差があるようなので、当該農地でどのような活用が出来るかについてはその農地を管轄する農地バンクや農業委員会へ一度相談に行くしかありません。
大阪であれば、一般財団法人大阪府みどり公社が農地バンクの問い合わせ先となっております。
森林経営管理制度の利用
森林であれば、森林経営管理制度を利用することができます。
森林経営管理制度をざっくり説明すると、森林の所有者と森林経営者を市町村が仲介して健全に森林を整備していこうという制度です。
こちらについても、該当の森林が実際に活用可能かどうかについてはまず相談してみなければわからないというのが正直なところですので、まずは一度下記メールアドレス宛に相談をしてみてください。
森林利用課森林集積推進室のメールによるお問い合わせアドレス
まとめ
予期せぬ土地を相続してしまって困った場合はいくつかの選択肢があるので、各相談窓口を利用してそれぞれの回答をつなぎ合わせ自分で最適解を導き出すことは可能。
とはいえ、自分もいらない土地は誰にとってもいらない土地であるため、必ず解決できるとは限らない!(どうにも出来ない土地も存在するのが事実)
時間的体力的に自分で動くのが難しい方は、弊社のような土地に関する手続きの専門家集団へ一括ご依頼のご相談をいただければと思います。