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福祉有償運送は通院以外にも使える?

通院介助以外の用途で例えば観光等に行きたい時に、自分が利用者登録をしている福祉有償運送(道路運送法第79条の国土交通大臣の登録)事業者を利用して、輸送してもらうことはできるのか?という質問がありました。

結論から言えば、出来る輸送プランと出来ない輸送プランがあると言わざるを得ないのですが、では、どんな内容なら問題なく利用できて、どんな内容だと利用できないのかについて解説してみたいと思います。

登録している自治体の協議会の判断が優先されますので、必ずその事業者を通して、登録している地域の協議会に確認をとってから実行していただくようにしてください!

目的による利用制限はあるのか

まずは、そもそも福祉有償運送ってなんなの?という部分の確認から始めてみましょう。
国土交通省の福祉有償運送のガイドラインではこのように規定されています。

福祉有償運送は、タクシー等の公共交通機関によっては要介護者、身体障害者等に対する十分な輸送サービスが確保できないと認められる場合に、NPO、公益法人、社会福祉法人等が、実費の範囲内であり、営利とは認められない範囲の対価によって、乗車定員11人未満の自家用自動車を使用して会員に対して行うドア・ツー・ドアの個別輸送サービスをいい、この福祉有償運送を行う場合には、運輸支局長等(兵庫県にあっては神戸運輸監理部長、沖縄県にあっては陸運事務所長を含む。以下「運輸支局長等」という)の行う登録を受ける必要があります。

このガイドラインをそのまま読み解くと、①要介護者や身体障害者等の人が、②公共交通機関による十分な輸送が確保出来ない場合に、③NPO等の非営利法人が、④営利じゃない報酬額で、⑤自家用車を使用して、⑥会員に対して行なう、⑦個別輸送サービスのことを言い、⑧登録を受けた事業者だけが出来るものである。

ということが書いてあることがわかります。
つまりこの記載部分だけ見れば、公共交通機関による十分な輸送確保できないということ以外には『行きたい理由』については限定されていないということがわかります。

この点について大阪運輸支局にも確認したところ、「病院への通院が輸送目的でないといけないというような使用制限を特別設けているわけではない」という回答を得ています。

「ただし、登録されている協議会の判断が重要となりますので、特別なことを行なう前に一度登録している市町村にまずは確認をとってください」
というご指導も合わせていただいておりますので、あくまでも、ガイドライン上では明記はされていない、という判断に留まります。

利用できるのはどんな人か

次は、『会員に対して行なう』という会員はいったい何を指しているのかについて確認してみましょう。
国土交通省ガイドラインには以下の記載があります。

以下に該当する者のうち、単独では公共交通機関の利用が困難な移動制約者で、あらかじめ会員登録した者を個別輸送する場合
身体障がい者
介護保険の要介護者
介護保険の要支援者※
その他肢体不自由、内部障がい、知的障がい、精神障がい、その他の障がいを有する者
※運営協議会で当該者の身体状況等が運送の対象として適当であると確認される等の必要があります

①身体障がい者か、②介護保険の要介護者か、③介護保険の要支援者で身体状況を協議会にて競技した結果、運送の対象にしましょうと判断された者か、④その他肢体不自由、内部障がい、知的障がい、精神障がい、その他の障がいを有する者

Ⅰ、上記①から④のいずれかに該当する人で、Ⅱ、単独では公共交通機関を利用して移動するのが難しい人で、Ⅲ、あらかじめ会員登録した人、であることが福祉有償運送の利用者になるための条件となります。

ただ単に足を骨折したので公共交通機関を使って一人で移動は出来ないから使いたい、というようなことは出来ないということですね。

遠い場所へも行けるのか

行きたい理由に制限が無いということは、遠方への輸送も行えるのか?というのも当然疑問としてわいてきます。
そもそも今回のご相談は観光に行けるのか?という部分が論点です。

例えば、大阪市で登録を受けている事業所の利用者が、京都の金閣寺に観光に行きたいと思った時に福祉有償運送を利用することはできるのでしょうか。

結論から言えば、「金閣寺だけであれば行くこと自体は可能」です。
ただし、「京都で観光できるか?」という質問であれば、NOと言わざるを得ません。

どういうことか細かく説明いたします。

福祉有償運送では、輸送の区域について以下のように定められています。

運送の区域は、運営協議会の協議が調った市町村を単位とし、旅客の運送の発地又は着地のいずれかが運送の区域内にあることが必要です。

簡単にかみくだくと、大阪市で登録を受けた事業者の運送の区域は、利用者を乗せる出発地点か、利用者を下ろす降車地点のどちらかが必ず大阪市内でなければならない、ということです。

つまり、先程の例で言いますと、大阪市で登録を受けている事業所の福祉有償運送を利用して、大阪市内の利用者の自宅まで迎えに来てもらい、京都の金閣寺まで行くことは、出発地が大阪市内であるため可能ということです。

その逆もまた然りで、京都の金閣寺から大阪市内の自宅まで利用者を送り届けることは、降車地点が大阪市内であるため可能ということになります。

つまり、自宅から金閣寺まで連れて行ってもらう、金閣寺から自宅まで連れ帰ってもらうだけであれば、制度上はなんら問題なく利用出来るということです。
では何が問題になるのかについて考えてみましょう。

発着地点の縛り

大事なことなので重ねて言いますが、出発地点と降車地点のいずれかが登録を受けた市区町村内でなければなりません。
このルールを具体的な観光行動に照らしてみた場合の利用の可否は以下のとおりです。

①大阪市内の自宅から京都の金閣寺まで行く ⇨ 出発地点が大阪市内なのでOK
②金閣寺から銀閣寺も行く ⇨ 発着地点の両方が大阪市内でないためOUT
③銀閣寺から寝屋川市の銭湯へ行く ⇨ 発着地点の両方が大阪市内でないためOUT
④寝屋川市の銭湯から門真市のラーメン屋へ行く ⇨ 発着地点の両方が大阪市内でないためOUT
⑤門真市のラーメン屋から大阪市内の自宅へ帰る ⇨ 降車地点が大阪市内なのでOK

この場合、②、③、④の輸送の全てが利用できません。
行くことはできるけど観光は出来ないと最初にお伝えした理由の1つはこの部分です。
あくまでも、金閣寺へ行って帰ってくることしか出来ません。

ただし、以下の内容であれば協議会の判断によって可能となる可能性がありますのでどうしてもという方は一度相談してみることをオススメします。

①大阪市内の自宅から京都の金閣寺まで行く ⇨ 出発地点が大阪市内なのでOK
②金閣寺から大阪市内の銭湯へ行く ⇨ 降車地点が大阪市内なので制度上はOK
③大阪市内の銭湯から門真市のラーメン屋へ行く ⇨ 出発地点が大阪市内なので制度上はOK
④門真市のラーメン屋から大阪市内の自宅へ帰る ⇨ 降車地点が大阪市内なのでOK

何度も制度上はと繰り返していますが、運送の区域についての制度だけを見ればこの内容が絶対にダメとは言えないのですが、他のルールや社会通念上の常識と総合的に勘案してダメでしょと判断される可能性は十分にあるということです。

現地での観光をどうするか

京都についてからあちこちへ寄れないのはわかったし、金閣寺だけでいいから行きたい!となった場合、現地の金閣寺に到着してからどのように観光するのか?というのがもう1つの問題となる論点です。

福祉有償運送はそもそも、公共交通機関を利用しての移動が困難な方を輸送するためのサービスです。
公共交通機関を利用して単独で移動できない人が、現地では単独で観光出来るというのはおかしな話になります。

であれば、現地の観光も誰かが付き添う事が前提となってきますが、福祉有償運送は乗り合い乗車は原則認められておりませんんで同時輸送出来るのは利用者一人のみであるため、親族や友人が一緒に乗っていくことは出来ません。

現地駐車場集合現地駐車場解散を前提として、付き添いする方には公共交通機関を利用して事前に集まっておいていただく必要があります。

福祉有償運送のドライバーがその時間は無償のボランティアとして観光のアテンドをすることが出来るかどうかについては各協議会の判断になりますが、恐らく二つ返事でOKとなることはないのではないかと私は考えます。

福祉有償運送のドライバーは、中には介護福祉士の資格をお持ちの方もいらっしゃいますが、多くは福祉有償運送に関する研修を受けた人であって、障がい者や要介護者の方の移動支援のプロではないため、安易に手を引いて転んで怪我でもしたらどうするんだという心配がつきまとうからです。

また、協議会によっては待機料金を収受することそのものを禁止している協議会もありますので、待機料金も発生しない状態で何時間も金閣寺の駐車場で待ち続けてくれる事業者がいるのか?という実際的な経営状態や営業方針による問題もあるでしょう。

どのように輸送すれば法的にも問題なく、かつ、利用者にとっても安心安全な輸送となるのかについて、事業者と協議会運輸支局がしっかりと相談を重ねなければ実現は難しいのが実情ではないでしょうか。

まとめ

福祉有償運送の目的はあくまでも、単独で公共交通機関を利用して移動するのが困難な方を安心安全に移送するための輸送サービスです。

遠方への輸送や観光目的の輸送を禁止してはいませんが、輸送することがサービスの主目的であるため、残念ながらツーリズムは主目的である輸送の本旨からは外れていると言わざるを得ません。

本旨から外れているからと言ってただちに出来ないということではありませんが、ここまでご説明させていただいたように、事業者も協議会も運輸支局も、『利用者の安全を守る』ために設けられたルールの中でそれぞれの立場で誠実に運営している結果こうなっているということが伝われば幸いです。