徳留行政書士事務所では相続に関するご相談も承っています。
最近は相続については様々なメディアにて取り扱われており、また、役所や各事務所等が主催する無料法務相談でも多々取り扱われている項目なので一般の方でも今や広く知識をお持ちの方も多いですね。
そこで今回は相続でのメジャー所である『現金』と『不動産』の話はせずに、『祭祀財産』について少し書きたいと思います。
まず、祭祀財産とはなんなのか?ということですが、これは、お墓や仏壇などのご先祖様を祀るための財産を指します。最近では永代供養もこれにあたりますね。
これら祭祀財産は財産ではありますが、相続するものではなく、承継するものと法律上は区分され、祭祀財産を引き継ぐ方は相続人ではなく、祭祀主催者と呼ばれます。
呼び方や定義はあまり重要では無いのでこの程度にしておきます。
では、祭祀主催者はどのように決まるのか?どのような手続が必要で、どのような権利や義務が発生するのかという実際問題の部分について以下に続けたいと思います。
1、どのように祭祀主催者は決まるのか
まず第一には遺言です。祭祀財産の持ち主が遺言を遺していればそれに従い、祭祀財産も承継されます。
次に優先されるのは慣習です。その土地、家系での慣習として、「お墓は代々長男のみが受け継ぐ」等の通常用いられている慣習に従います。
仮に、遺言も慣習も無い場合には話し合いで決定します。
話し合いでもまとまらなかったら家庭裁判所での調停によるところとなります。
こう書いて見るとわかると思うのですが、一般的な遺産相続のように相続人や相続順位などの確固たるものはないんですね。このことからも相続とは区分されているということがわかるかと思います。
ちなみに祭祀主催者になりたいという立候補は親族でなくてもできます。というのは、親族でなくても民法上ではお墓は承継できるからです。
ただここで「民法上は」とあえて入れたのは、その墓地や霊園に個別に設定されている契約内容や使用に関する規則等があればそれに従わなければならないからです。
契約書や利用規則の中に「承継は○親等内の親族に限る」などということが書いてあればそれが優先されます。
ただ、最近は核家族化に伴い、承継できる親族が居ないなどの場面も多々あるため、そういった場合には特別に親族でない者の承継を認めてくれる場合もありますので、一度霊園で条件等の確認を行ないましょう。
大抵の霊園には顧問の弁護士の先生が居たりしますので、相談に乗ってくれることと思います。
2、どのような手続が必要なのか
仏壇や仏具であれば協議書を作成した後、現物の引渡しをもって完了ですが、お墓や永代供養であれば、その霊園や墓地の手続き方法に従います。
大抵の場合は相続と同じ手続きを踏む事が多く、被相続人の戸籍謄本と相続人の戸籍謄本を集め、全ての相続人の承継承諾書を作成し、規定の手数料を支払って、祭祀主催者の登録の手続を行なうのが一般的な流れかと思います。
ここで難しくなる状況としては、直系親族以外の方が納められている場合です。
■パターン1
「父が購入し、祭祀主催者として登録されているお墓に父方の祖父母、母が入っていて、父が亡くなったので長男である私が承継する」
これが一番多い場面かと思いますが、この場合であれば相続と同じ状況なので必要な戸籍や手続は相続と同じとなり、相続手続の流れでそのまま承継も行なえます。
■パターン2
「父が購入し、祭祀主催者として登録されているお墓に父方の祖父母、母、父の兄、母方の祖母と母の妹が入っていて、父が亡くなったので長男である私が承継する」
こうなってくるともう大変です。相続であれば関係の無い<父の兄>と<母方の祖母>と<母の妹>という人物が入っていることで、この3者の相続人もそれぞれこの祭祀財産を承継できる候補者となりますので、この3者の戸籍謄本をとり、相続人を確定させ、相続人全ての戸籍謄本と承継承諾書を集めなくてはなりません。
これが<父の兄>のように親族でなくても<戦死した祖父の親友>が納められているなんてケースも相談を受けたことがありますが、そういった場合でもパターン2と同じ手続きを求められます。
お骨合わせが終わっていて、特定の氏名ではなく、<先祖代々>となっている遺骨が納められている場合はその遺骨は手続の上では気にしなくても大丈夫です。
このように、後に承継していく方が大変な思いをすることがありますので、自分のお墓に誰を納骨するかは祭祀主催者の自由ではありますが、あまり色んな方を引き受けてしまうのはお勧めできません。
もし既に色んな方の遺骨を納めてしまっている祭祀主催者の方がいらっしゃるのであれば、その方は生前に承継者を選定して手続を済ませておくか、遺言書を書いておきましょう。
以前は生前に承継者を選定することは出来なかったのですが、それでは無縁墓になってしまうなどの事態を招くことも増えたため、正式な手続を踏めば生前承継も可能となりました。
気になる方は一度ご自分の霊園や墓地へ問い合わせてみてはいかがでしょうか。
3、どのような権利や義務が発生するか
当然のことですが、何かの権利を手に入れれば同時に義務も発生します。
祭祀主催者となって得る権利といえば、お墓や遺骨に関する決定権を得ることです。
例えば、「遺骨がいっぱいになったので誰と誰と誰をお骨合わせをして先祖代々の骨壷に納める」ということや、極端に言えば「自分の愛人の遺骨を自分のお墓へいれる」といったことが自由に決定できますし、何より今後、自分が亡くなった後に入るお墓の心配はいりません。
それに対して発生する義務は、地域や宗派によって変動もありますが、お墓の手入れや管理、遺骨の追悼供養、維持費や管理費用の支払、檀家や寺院とのお付き合いの継続が一般的なところでしょうか。
さて、比べて見てどうでしょう?権利と義務の重みは等価でしょうか?
納められている方それぞれに違う命日や回忌供養があり、お彼岸やお盆の追悼があり、その度にお布施を支払い、お花やお供えを用意するだけでも大変なのに、檀家の夏祭り等のイベントに参加したり・・・。
これら全てを祭祀主催者一人でまかなうのはとても大変なことです。親族のそれぞれが各々、亡くなった方を大切にしようという思いをもって協力していかなければ永続的に祭祀財産を守り続けることは出来ないと思います。
祭祀主催者ではないからといっても、親族でなくなったわけではありません。
亡くなった方が安心して休めるように、それぞれが当事者意識を持って親族一同で取り組んでいかなければならない問題なのだという認識の上で話し合いを行なうことができれば、きっと適切な祭祀主催者を選定することが出来ることでしょう。
常日頃から親族一同で祭祀に取り組んでいることがもちろんベストですが、連休で実家に帰省した際にでも、少しご先祖様の話をしてみるのもいいのではないでしょうか。