事業継続力強化計画にかかる認定がおりました。詳しくはこちら

行政書士にとっての廃業という選択肢を考える。

先日、後輩の行政書士から、行政書士を廃業するという報告を受けました。

コロナのこのご時世なので悲しい廃業なのかなと一瞬頭をよぎってドキっとしたのですが、話を聞いていたら使える選択肢を適正に使っただけの明るい廃業だったので、卒業おめでとうと言わせていただきました。

廃業することそのものが負けということではないということを、これから行政書士としての開業を考えている人や今まさに廃業について悩んでいる人に少しでも伝えられればと思い、当該後輩さんに了承を得てインタビューさせてもらい、この記事を書くにいたりました。

プライバシーに配慮して表現は少し変えてありますが、廃業するまでのリアルを出来る限りそのままの言葉でお伝えしたいと思います。

なぜ行政書士開業したのか?

スタート地点が見えないと経緯がわかりづらいと思うので、まずはなぜ行政書士として開業しようと思ったのかを教えていただきました。
当然理由なんてたくさんあるでしょうし色んな想いも複雑にあったようですが、簡単に文字にまとめると以下の理由でした。

「会社勤めをしていて自分は会社員に向いてないと思ったことと、自営業になっても親に仕送りできるぐらいには稼げるようになりたいという思いがあったからです。」

補足としてお伝えしたいのは、この方は会社員時代に誰もが知っているような有名企業にお勤めで、そこをあえて退職して行政書士になったので、気楽に開業したわけではなくそれだけの安定を捨てての挑戦だったということです。

ちなみに前職は士業界隈ではなく一般企業にお勤めであったためこの後輩さんは、いわゆるコネなし知識なしの即独開業者でした。

開業してみてわかったストレスは何だったか?

会社員をしていて自営業者になること、一般企業から士業界に入ること、どちらも初めてのことなので即独開業者には様々な苦難が待ち構えるわけですが、特に困った、辛かった、ストレスだったことはなんだったのか?ということを聞いてみました。

「しんどかったって思ったことは1つもないので、ストレスだったとかいう言葉は違うような気がするものの、一番衝撃だったのは、結局人間関係じゃん!ってわかったことでした。むしろ、会社員の時よりももっと重い人間関係の中で仕事をしなくちゃならないんだっていう当たり前のことに、自分は開業するまでは気付けないバカでした。」

「今なんて会社員ならパワハラだアルハラだって言って飲み会とかも断れる分、会社員の方がもっと人間関係は希薄にしやすいよなあって感じます。それに比べて行政書士の集まりはただマウントを取りたいだけの人が何を言っても文句を言ってくるというのが本当にあるのでそれはほんとイヤでした。」

この答えを受けて、『自営業だから好きな人とだけ付き合えばいい』というファンタジーはまだ生きているのだなと再認識できました。
むしろSNSが発達している今だからこそ、そういうキラキラした部分しか見せない人がとても目立つので余計に増長しているのかもしれませんね。

実際は会社員時代と違って守ってくれる人も代わりに行ってくれる人もいないから、全部自分で対応しなければならない。
好きな人とだけ仕事を、なんて言えるのは既に何かで成功してほおっておいても利益が上がる会社を作り切った人だけが言えることです。

個人事業主はじめたての人間は、そこに至るまでにどんなブラック企業よりもマンパワーで活動して、なんとかその日、その月を生き抜くための数字を作らなければならない。
このタイミングで選り好みができるのはコネか財産のある人だけだと思います。

どんどん少なくなっていく預金通帳を見ても、武士は食わねど高楊枝なんて本当に言える人が果たしてどれぐらいいるのかと考えると疑問しかありません。
少なくとも私は武士ではいられないので真っ当な業務であればイヤな人とでも全然仕事をします。

自営業者として食えてはいたの?

結局人間関係じゃん!というショックは受けたものの、営業活動をすることやお客様のご相談に乗ること等は特にストレスではなかったという後輩さんに、実際にはどんな営業をして、どういう業務を行なっていたのかを聞いてみました。

「私は本当に単純な営業方法しかしていなくて、印刷屋さんに行政書士ですってチラシを作ってもらって、そこに自分の今までの経歴とか特技を載せて、そのチラシを配って営業していました。そこで驚いたのが、行政書士の自分には全く興味を持ってもらえないのに、今まで生きてきた私自身には興味を持ってくれる人がたくさん居たという事です。行政書士に用事はないけど、君は面白いからなんか仕事頼むわって言ってくれて、行政書士業務ではないご依頼をもらえていました。」

行政書士業務をしたのは先輩先生から頂いた下請けや紹介の仕事だけで、自分でとってきた仕事は全て行政書士業務以外でした。

つまり、行政書士としては食えていなかったけど、自営業者としては十分に食えていたわけです。

ちなみにご依頼をいただいていた行政書士業務以外の業務というのは、後輩さんの特定を避けるために直接的表現は控えさせていただきますが、自分の特技を納品する系のお仕事で、顧問契約に近い形で定期継続的にご依頼をいただくタイプの業務でした。

なので行政書士に換算すると、顧問契約が複数社固定収入である上にスポットの新期許認可案件が数カ月おきに入る、プラス先輩からの紹介や下請け業務が少々という形で売り上げが立っていたということですね。
1人社長としてはちょうどいい稼働時間で十分な売上げだと言えるでしょう。

この状況だったらそりゃ行政書士は廃業するよねって思いました。
自由に引っ越しも出来ない、事務所を1つ以上持てない等、士業であることによって不便になる事が事業を行なう上で多いからです。

しかし、後輩さんはそんな理由ではなく、もっと純粋な理由から行政書士廃業を選択したようでした。

アイデンティティと行政書士

「行政書士に全く興味をもってもらえなくて、私は行政書士でいる理由があるのだろうか?というのが引っ掛かるようになりました。そして、先輩からいただく行政書士業務をしている時と、それ以外の仕事をしている時とどっちが楽しいかを考えたら、それ以外の仕事の方が楽しいなって気付いてしまったんです。行政書士が楽しいって思ったこと一度もないなって。」

「行政書士業務をして先輩からありがとうって言われるのと、お客様からそれ以外の仕事でありがとうって言われるのと、どっちも同じありがとうのはずなのに、お客様から言われるありがとうが圧倒的にやりがいを感じて嬉しかったんです。自分でとってきた仕事だからなのかなとも思ったんですけど、そもそも後者のほうが自分がやりたいことを仕事にしているので、そこかなって。」

行政書士の自分は売れないが今まで生きてきた自分自身は売れているという状況になって、行政書士試験が大変だったことや、せっかく苦労してそれなりに高いお金を使って開業したことが思い出されて、なんで行政書士の部分だけ必要とされないんだろうという葛藤はあったようです。

どうせ個人事業主として確定申告するんだし、年会費も安いんだから登録自体は残しておいて、今のまま自営業を続けて行くのもアリなんじゃないかなって考えたこともあると言っていました。

受験自体も一発合格じゃなかったから余計に、合格のために勉強にかけた時間の分だけ資格を捨てるには惜しいという気持ちが強くあって、自分もなかなか廃業を選択出来なかったから、廃業していないだけのエア行政書士がかなり多い理由が初めてそこで理解できたとのことでした。

そして廃業へ

「こんなこと言うとほんと負け惜しみの強がりだと思われるかもしれないんですが、何かすごくイヤなことがあったわけじゃないし、事件やきっかけがあったわけでもないんです。ただ、自分の今後の人生を考える上で、結婚もしたいなとかそしたら安定収入があった方がいいなとか、仕事も開業はしたけど行政書士じゃなくていいじゃんって想いがほんとずっとあって。自分は行政書士として稼げてないじゃんっていう負い目もあって。。。」

「そういうのずっと考えてたらやっぱり行政書士がやりたいわけじゃないってわかってしまって、開業したことで今更ようやく自分の性格がこうだったんだって気付くこともたくさんあって、例えば私は苦手を克服するより長所を伸ばす方が得意だし、強く自己アピールするのは苦手だというのもわかったので、総合的に考えたら行政書士はやめて、会社員になろうって自然にストンと落ちたような感じです。

これを聞いて本当に驚いたのは、この後輩さんは自営業者としてはしっかり戦えていたのに、それでもやっぱり行政書士としては食えていなかったというところにご自身で負けたという意識があったということでした。

一度進んだからにはずっとそこで頑張れ!みたいな美学はあるとは思いますし、それが出来る人は本当にすごいと私も思います。
でも、転職する選択肢や廃業する選択肢も当然にあっていいものじゃないの?と私は考えています。

とはいえ、今は転職に関しては比較的に許容される時代になったと思いますが、自営業を失敗した人は就活しても採用されないという話をよく聞いていましたし、もし私が行政書士開業をして廃業した人を自分の事務所で雇用するかどうか?と考えた時に、たぶん採用しないだろうなと過去に考えたことがあったので、そこだけはネックに感じていました。

しかし、この問題にもすばり不安を拭う頼もしいお話が聞けたので、次項は特に皆さんに読んでいただきたく思っています。

廃業者はやっぱり就活に不利なのか?

私が就活をしている中で、自営業をしてやめたことが不利になっていると感じたことは全く無かったです。気付いてないだけっていう可能性は否定できませんが、廃業したような奴がみたいに扱われたことは一度も無いですし、逆にハレモノみたいに自営業時代の話に全く触れられないとかもなく、普通に開業していた過去にも興味を持って面接してもらえました。」

「良いのか悪いのかはわかりませんが、戦果としては有名企業を8社受けて、4社内定をもらえました。その中の1社に就職を決めましたが、その会社の給与年収でいうと入社初年度から500万以上で副業もOKになっているので、安定収入を得ながら、今頂いている仕事も続けて年収1000万超えできます。私が開業した時の目標だった、親に仕送りできるぐらいには稼ぎたいというのと、安定収入で結婚というところはこれで達成出来るので、廃業する選択に後悔は全くないです。これでまた会社員辞めちゃったら自分が本当にダメなやつだったってだけですねw」

これを当事者から聞けたことが本当に今回インタビューをして良かったなって思ったことでした。
きっと就職では不利に働くに違いないと思っていたことが、そうではない世界があったと証明してくれたからです。

この後輩さんは行政書士は好きじゃなかったって気が付いて、全く士業界隈ではない一般企業さんへ就職したのでこういう結果になっただけかもしれませんが、そもそも士業界隈で仕事をしていたいならそのまま自営業頑張ればいいだけの話なので廃業して就職することにはならないですもんね。

一般企業に就職するには行政書士開業して頑張っていたことはマイナス評価にはならないということがわかっただけで十分だなって感じています。
もちろん、どのように自営業を頑張ったのかについて話せるような内容も無く廃業するような人はただの怠け者なので就活も当然ダメでしょうが・・・。

弊所では基本的に廃業者は積極雇用しません

せっかくなので、なぜ私なら行政書士開業をして廃業した人がうちの事務所に面接にきたら採用しないだろうなぁと思ったかについても思う所を書いておきたいと思います。

廃業した理由は何か

例えば、開業して一人で頑張ってたけど親が病気になって介護離職しなければならなくなって廃業することになった、みたいなのっぴきならないことであれば採用も考えると思いますが、その状況の時にリアルタイムで相談を受けていた知人ならまだしも、面接にきた初めましての人にそれを言われてもこっちにはそれが真実かどうかを確かめる術は無いのでそのまま受け止められるかどうかはわかりません。

面接で自分をよく見せようとするのは当たり前のことなので、ウソまではついていなくても、他にイヤなことがあってそれから逃げるために介護をきっかけとして辞めたのかもしれないとも考えてしまうことは十分考えられるということです。

また、業務の責任ストレスに耐えられなかったから廃業したのであればそもそも士業の仕事やっちゃダメでしょって思っちゃいますし、営業や人と関わりがイヤなだけで書類作成は得意ですとか言われても、それはプラス査定には普通に働かないですね・・・。

不要なプライドは捨てられるのか?

個人事業主としてやってきたわけですから、それと同じ業務を続けるのに今までの自分のやり方やこだわりを全て捨てられるのか?という部分に強い疑問があります。
自分のこだわりを通されるのであれば、最初からそういうのが無い人を育てる方が私にとっては楽です。

ここに関しては他の事務所で補助者をしていた経歴がある人にも同じことが言えます。
前の事務所ではこうだったので!とか言われても、こちらとしては正直知らんがなとなりますw
だったらそちらでずっとお勤めしていればよかったのでは?と。

実務知識があること自体は素晴らしいと思うのですが、事務所によってやり方が違う事なんてたくさんありますし、方針だってそれぞれ違います。
辞めた以上はきっぱりさっぱり心を真っ白にしてから次に行かないとダメなんじゃないですか?というところが引っ掛かるのでしょうね。

以上2点により、行政書士法人つむぎでは廃業者を積極採用はいたしません。
東京の某行政書士法人の先生も廃業者は雇用しないと仰っていて、その先生は、運の悪い人とは関わりたくないから廃業者は雇用しないとのことでした。

廃業する際には、行政書士事務所に就職するのは難しいというのは念頭に置いておいて、行政書士の仕事が好きだったり、未練がある!という場合はなんとか廃業せず済む方法を考えて頑張るか、もしくはなんらかの付加価値をつけた上でよその行政書士法人に自分ごと買い取ってもらえるようにプレゼンに行く方がいいのかもしれません。

廃業という選択肢はアリ!

結論として、
『しっかり自営業を頑張った人が、会社員を辞めた理由と現状を比較検討して会社員の方が向いていたなと気が付けた場合、士業界隈以外の業界に就職するという選択肢は全然アリ』
というのが今回の行政書士廃業者インタビューで得た私なりのまとめになります。

だって、会社員の時にいくら自営業者になった自分を想像してみたってそんなの所詮想像の域を出なくて、実際に開業したらその10倍ぐらいは大変なことがだいたい起きます。
(そんな壁に全くぶつからない剛運な人や、全て想定内という天才もたまにはいますが)

補助者として士業事務所に勤務している時に独立した時のことを想像したって、そんなの全て絵にかいた餅でしかなくて、実際に開業したら自分の資格をかけて自分の名前で責任をとることのストレスがどれだけ重いかを始めて知ったり、独立したらそっちに仕事を回すよっていう言葉がほとんどウソだったことがわかります。

やってみなきゃわからないことをやってみた結果、やっぱ違ったなってなったなら軌道修正するのは当然のことで、その選択肢として違う職業を選択するのは当たり前のことだよなと。

だから廃業したことそのものを持ってあなたは負け組ですねってマウントを取るのはおかしくて、就職して働いて納税しているなら、廃業もせず、かといって仕事もせず売り上げがたいしてなくて納税もしていない個人事業主と比較してどっちがどうなんでしょうねっていうことは自戒も込めてしっかり考えていきたいなと思いました。