M&Aについて考える。

現に事業を行なっている人や、これから事業を行なおうとしている人、また、それらの方から相談を受ける立場である各種士業の人たちにとって不勉強では済まされなくなりつつある事業承継。

当事務所にもご相談の声が寄せられたり、後継者不足問題について事業主さまと一緒に考える機会を経ていく中で、事業承継の中でも特にM&Aについてはもっとしっかり学んだ上で選択肢として持っておく必要性があるのではないかという見解に私の中で至りました。

そこで、今回はM&Aについてみなさんと一緒に多方面から考えていけたらと思います。

まずは基礎をおさらい

そもそも事業承継ってなんだろう?M&Aってなんだろう?という基礎からまずは押さえてみましょう。

事業承継(じぎょうしょうけい)とは、会社の経営権や理念、資産、負債など、事業に関するすべてのものを次の経営者に引き継ぐことを指す。
主な承継先は以下の3者であることが一般的(中小企業白書 2019年版 – 中小企業庁(第1章第2節1項を参照))。
 ・親族内承継。
 ・役員、従業員承継(親族外)。
 ・社外承継(M&A 等)。

出典: フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)

M&Aとは、「Mergers(合併)」and 「Acquisitions(買収)」の略で、直訳すると「合併と買収」という意味である。
さらに簡単に言うと、「ビジネスの売買(買収)」、「複数のビジネスを一つに統合(合併)」するための手法。

出典: フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)

読んで字のごとく、事業のあらゆるものを次へと承継していくことの全てを指して事業承継という。
そして、その中の社外承継の主たる手段である合併や買収をM&Aと呼ぶということで良さそうですね。

M&Aなんて自分には関係ない?

「合併や買収なんて大きな組織だけの話でしょ?自分たちには関係ない」と思っている零細企業の方や、小規模事業者の方はとても多いです。
果たして本当にそうなのでしょうか?

弊所でもM&Aに関するご相談を受けたり、事業についてのご相談を受けていく中で結果としてM&Aという方法に至った案件もあるのですが、決して全てが大きな組織だったわけではありません。

また、M&Aをなんとなく”よくないもの”として捉えてる人も未だに多いようです。
かくいう私もM&Aについて勉強する前は、『会社を乗っ取られる』とか、『名前だけ使われて内容は自分たちが作り上げてきたものとは違うものにされてしまう』というイメージが強かったです。

私は実際の業務でこういった場面に遭遇した経験がないのでなんとも言えませんが、敵対的合併や買収の場合はそういった側面もあるでしょうし、ニュースで取り上げられやすいのはこういう話が多いので悪いイメージが先行しているのかもしれません。

しかし、私自身は勉強したり経験していく中で、M&Aそのものは決してマイナスなものではなく、むしろ双方がwin-winになれる期待値を大きく秘めた事業戦略なのだなという考えに至りました。
結局はどんな道具も使う人次第ということですね。

出口戦略とM&A

大会社ではないからこそ、深刻な問題として後継者不足があげられると思います。
前項で少し触れた、双方がwin-winになりやすいM&Aの使い方として今特に多いのは出口戦略としてM&Aを用いる手法ではないでしょうか。

守秘義務があるので内容については詳しくは書けませんが、ご相談を受けたり他士業の方と連携して対応にあたる中で感じた私の所感としては、小規模ながらもニッチな分野でノウハウを確立していてファン化されている顧客がいるような事業は前向きな引き合いがある印象が強いです。

【とある事例】
とあるニッチな業務を行なっていて、その地域でその事業と言えばその会社の名前は上がってくるというような状況にある会社で、代表者の方は自身が高齢であることを理由に引退を考えていました。

しかし、既存顧客の方から辞めないで欲しい!なんとか会社だけでも続けて欲しい!という声を受けて、自分が引退しても今のまま事業を引き継いでくれる人がいないか探すことにし、その結果として条件付きで会社を売却するという決断に至った。

この”条件付き”というのは、新規事業には口を出さないし事業拡大をするならしてもいいが、既存のサービスと既存の顧客に関しては既存の方法を用いてサービスを行なって欲しいというものでした。

既に他の事業で成功していてこの業界に新規参入したいと考えていた企業が、ノウハウごと売却してくれる会社を探していたのでそことうまくマッチングすることが出来、この内容でお互いにwin-winで話がまとまったというケースがありました。

士業事務所とM&A

小規模な事業所で行なわれているM&Aといえば、実は士業事務所にもよくあることだというのはご存知でしょうか?
行政書士事務所や司法書士事務所等では、法人化に伴う支店展開や出口戦略にM&Aをという手法を利用するケースが案外多く見られます。

それは我々士業の業務がニッチであり、また1支店に最低1人は資格者が必要という制約があること、司法書士に至ってはそもそもその資格者の数が圧倒的に少ないことなどから最適化を図るとM&Aにたどり着きやすいという側面があるのかもしれません。

士業法人の支店展開

先ほども少し触れましたが、行政書士事務所や司法書士事務所には1人1事務所規定があります。
個人事務所であれば2つ事務所を持つことは許されず、支店を増やしたければ法人化するしかありません。

また、法人化しても支店を設置する場合にはその支店の責任者となる資格者を必ず配置しなければなりません。
例えば弊所は法人化しており現在2名が行政書士登録をしておりますが、東京に支店を設置しようと思えばどちらかは東京支店で勤務しなければならなくなるということです。

どちらも東京勤務は出来ないけれども東京支店は作りたい!となった時に、M&Aが候補としてあがってくるわけです。

【よくある事例】
東京でお一人で行政書士事務所で行なっているXさんは、一人で実務をしながら営業活動も続けていくことに限界を感じていたが、仕事は好きだし既存顧客もいるため事業を閉じるという選択肢は無かった。
しかし営業はしたくないし、代わりに営業してくれる人を育てるノウハウもないことが悩みだった。

行政書士法人Tは東京に支店を出したいと思っていたが、業務が広範にわたることやローカルルールが多い行政書士の特殊な職業状況から、東京支店を出すのであれば東京での実務経験が豊富な人に管理職を担ってもらう必要があると考えていたが、一般の求人ではそれに適う人材を見つけることが出来ないことが悩みだった。

例えばこのXさんと法人Tがうまく合併できたら、お互いに幸せになれる道が見つかると思いませんか?

支店展開に力を入れている士業法人さんでは事情や状況の違いはあれど、このような形で相互利益を生み出せるM&Aが行なわれているケースがあります。

士業事務所の出口戦略

『出口戦略とM&A』の項目でも触れましたが、後継者不在問題が深刻なのは士業事務所も同じです。

法人化していない士業事務所であれば少数精鋭で運営していることがほとんどですので、補助者及び事務員は有資格者でないケースが多いです。

更によくある話として、子供や親戚等が後継者候補として事務所内で勤務しているにも関わらず、試験に合格しないので事務所を引き継がせることが出来ないというケースもあります。

これらの方が一念発起して試験に合格したとしても、これまで会社員として事務所勤務していた人にとっては、実務は出来ても経営を担うのは荷が重すぎるという問題があります。
事務所内作業を任されていた従業員さんであれば、営業も経験のないことでしょう。

従業員が経営者になるということは全く性質が違う役割が求められるので、引退後も先代が手厚いサポートをしてくれない限りは何の問題も無くうまくやれるケースの方が少ないのではないでしょうか。

であれば、資格を取得してこれから開業しようと準備している経営者気質の方に従業員の継続雇用を保証してもらった上で売却というのも選択肢に上がってくるという流れのようです。

私も過去に、「歴史ある貴事務所を残すためにいざとなれば私でよければ引き継ぎますよ」というお話を大先生にさせていただいたことがあります。
(その先生は今も現役で頑張っていらっしゃいますので、嬉しい事に私に用事はなさそうですw)

さいごに。

一般的な会社にしても士業事務所にしても、後継者にお困りの大先輩が自ら新人を探しに出かけてきてくれて、「うちの事務所やらない?」なんて声をかけてくれることはまずありえません。

我々若手経営者(になろうとする者)が自ら勉強し、win-winになるための提案とプレゼンをし、『先方の出口戦略を成立させることで自身の起業戦略を成立させる』というのは起業家といわれる人たちの間だけでなく、今後自営業を行なう全ての人たちの選択肢になっていくのではないかと私は考えています。